がらまんじゃくは、沖縄本島の中部、金武(きん)町にある古民家カフェです。カフェといっても、提供されるのは琉球宮廷料理の流れをくむ本格的なもの。昔から湧水地として知られ、古い歴史と豊かな自然をもつ金武町ですが、町面積の約6割が米軍基地であるという別の顔も持っています。
がらまんじゃくの店主、山城清子さんは、もともと首里の生まれ。ご主人の実家のある金武に2009年、店を開きました。料理歴30年以上、2人の子どもを育てながら常に沖縄の料理について学び、腕と舌を磨いてきた山城さん。そんな彼女がこの地でつくる料理は「原種」と「野草」にこだわった、あざやかで力強い品々です。
「種」には並々ならぬ思いを持っている私は、興味津々で訪ねました。「がらまんじゃく」と逞しい文字の看板がある入口からは、建物が見えません。月桃にパパイヤ、極楽鳥花、南国の植物が茂る石段を登っていくとまずは生まれたばかりの子猫ちゃんたちがお出迎え。
母猫ちゃんに「にゃにゃにゃにゃにゃ~(お邪魔します。あとで遊びましょうね」と声をかけていると、山城さんが現れました。
- 寅子
- 素敵な庭ですね。これはもともと生えていたものですか。
- 山城
- いえいえ、ここは草ぼうぼうの荒地で。庭の植物はほとんどがあとから植えた原種や野生種、薬草なんですよ。
- 寅子
- それはすごい!でも自然のものだから、根付きやすいのかしら。
- 山城
- そうかもしれませんけれど、沖縄は台風が多いから、いつも被害はでますよ。20年かけて ようやく落ち着いてきたという感じです。
- 寅子
- 20年!
- 山城
- この屋敷もね、やっと20年です。どうぞどうぞ、中へ。
店の玄関を入ると、そこはまさに、沖縄の古民家。初めて入るのに、懐かしく、大きな「気」に包まれるような空間です。
- 寅子
- わあ、素晴らしい!なんてすばらしい建物でしょうね!。
- 山城
- ありがとうございます。嬉しいなあ。
- 寅子
- この床も、梁も、ああ、欄間は竹細工ですか。素晴らしい。
- 山城
- この床はね、楠です。
- 寅子
- 楠ですか!それじゃあ初めは随分いい香りがしたでしょう。クスノキはカンファー。冷えに出すレメディです。
- 山城
- 樹齢500年の楠を切って、こ の家の精霊になっていただいています。この床がそう。正面にある切株が、その楠なんですよ。
- 寅子
- 500年!
- 山城
- 切ってよいものか大変迷いましたけれど、この木のお力をいただきたいと心を決めて、丁寧に御願(うがみ)して使うことにしました。
- 寅子
- だからこの空間なんだなあ、素晴らしいです。
囲炉裏を囲む席に座り、まずいただいたのは野草の酵素ジュース。瑞々しい野草の香りと、わずかな苦み、そして爽やかな甘みのドリンクは汗をすっとおさめてくれます。
- 寅子
- これは何か柑橘かな。おいしい!
- 山城
- さすが。庭の野草数種と、シークワーサーが入ってますよ。
- 寅子
- どんな野草ですか?
- 山城
- サクナやフーチバーが入っています。サクナは別名、長命草。昔から喘息・肝臓病・腎臓病に効果があるといわれています。フーチバーはよもぎです。
さていよいよ、食事の登場です。私は動物性食品が入っていない「からまん定食 デトックス」を注文しました。これを食べると腸がいイキイキする!そうです。
- 寅子
- これはおいしい。縄文時代の私が喜んでいます!体が覚えている。なんて懐かしいおいしさなんだろう
普段、実は思ったものを食べられないため、外食をめったにしない私です。
いただいたのは定食の玄米ご飯は食べた瞬間、自分の内側から湧き上がる懐かしさと衝動で箸がとまらず、早く完食したいと思いました。スベリヒユや島らっきょ等々、「がらまんじゃく」で周辺で育つ滋味豊かな薬草や野菜が身体に染み込んでいくようです。
しみじみと感じるこのおいしさはどこからくるのか?――――。それは種。
山城さんと話して思ったことは、この「がらまんじゃく」でいただいた食べ物をもっと大切にしていかなくてはならない。遺伝子組み換えでなく、ちゃんと昔から脈々と受け継がれてきた種からできた食べ物を残すこと。食の現場がどんどん変化していくなか、これがこの5年で守れなければ、日本の食は崩壊してしまう。そう痛感しました。そして山城さんと「一緒に日本の食を守っていきましょう」と誓い、沖縄を後にしました。
Update / 2015.07
Profile
由井 寅子(ゆい とらこ)
「日本豊受自然農」代表。日本ホメオパシー界の第一人者としてのキャリアを基に、安心安全な作物にこだわり、無農薬・無化学肥料・自家採種に徹した独自の自然農法を確立、健康食品や化粧品の開発もてがける。ホメオパシー名誉博士。農民。